暁の間

のらりくらりと…

初プレゼント

《ん、》

 

突き出された手に握られていたものは…

 

 

 

金曜日の帰宅後のこと。

私はジャケットとカバンを部屋にほおり投げると、忙しそうにしている母の元に向かいました。

夕食の支度をしているところ申し訳ないなと思いつつ、こちらも急務なんだと自分に言い聞かせました。

 

“ん、”

 

とかがんで何かを探している母にぶっきらぼうに手を突き出しました。

しっかりシュミレーションしたはずなのに、その言葉は一切出て来ませんでした。

照れが勝ってしまったのです。

 

母はすぐさま反応して、かがんだまま顔を上げると“え?なに???”と慌てて体を起こして突き出されたそれを覗きました。

突き出された私の手に握られていたのはビニール袋の持ち手でした。

そのビニール袋の中身は、かわいらしい小さな花束です。

 

“えっっ、どうしたの?どうして??”

“母の日じゃん、今週。”

“ああ!”

“明日(土曜日)、出かけるつもりないから…かと言って日曜日は(混んでしまって)買えるか分からないし…”

“わぁ…ありがとう!”

 

嬉しそうにそっと受け取ってくれました。

作業を中断して花瓶を慌てて捜し始めた母親を見て、クスッと笑いながら身支度を整えるために部屋に戻りました。

 

身支度を整えてリビングに出ると、母がちょうど花束を花瓶に挿したところでした。

 

“ちょっと、待機!待ってて?”

 

と花束に話しかけて夕食の支度に戻っていきました。

 

実は、花束を渡した時、父親もいて話しかけてきてくれました。

私が貰い物ではなく、自分で花束を選んで買ったのは今回が初めてだったので、父親も興味を持ってくれたようです。

どこで買ったのか、花屋はどんな雰囲気だったのかなどなど、自分の感想を交えて話すと、とても楽しそうに聞いてくれました。

…本当は父親も私と沢山話したいのかな、と改めて考えさせられた瞬間でした。

 

夕食後、母親は休憩も程々に待機させていた花たちを手に取ると茎の先を切って水を吸いやすくしてあげていました。

(…華道の授業でこの作業をなんというか習ったはずなのですが…忘れてしまいました。)

そして一旦花瓶に戻すと、今度はおまけで着いてきた栄養剤の袋を手に取りました。

500mlの水に栄養剤を1袋入れて混ぜたものを花にあげると、花が長持ちするんだそうです。

母は栄養剤入の水を用意すると、花瓶に入れていた水を捨てて、それを移し替えようとして…失敗しました。

花瓶か小さいので少しづつ継ぎ足す予定でした。

少しづつ慎重に入れようとしたのに、花瓶に上手く入らず、外に出てしまったんだそうです。

 

少しショックを受けながらも、気を取り直して花瓶に栄養剤入水を入れ終わると、その花瓶をリビングに戻しました。

母の席の目の前に置くと、母は花の位置を少しづつずらして、花瓶に挿した花が綺麗に見えるようにしてくれました。

その時の母はとても満足気で、“すごく可愛い!ありがとう!”と何度も言ってくれました。

まさかそこまで喜んで貰えるとは夢にも思っていなかったので、驚きましたよ。

 

実は今まで、母の日に何かプレゼントはあげたことがなかったのです。

(学校行事であげたものは除いて。)

その理由は至ってシンプルで、その翌月が母の誕生日だからです。

ちなみに似たような理由で父の日にもプレゼントはあげたことがございません。

その代わり、誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントは少し奮発して渡していました。

 

今年は何故、母の日にプレゼントを渡すことにしたのかと言うと、家族揃って迎える母の日がこれが最後になるかもしれないと思ったからです。

私の一人暮らし計画がそのまま予定通り遂行されれば、来年の母の日は一人暮らしをしています。

母と確実に過ごせる保証がなかったのです。

それならば、小さくてもいいから気持ちが籠ったものをと思って、カーネーションが入った小さい花束を選んで渡したのです。

 

そういえばお伝えしてませんでしたね。

花束は赤のカーネーションとピンクのガーベラがメインで、その他に名前のわからない小さな花たちとぺんぺん草が入ってました。

 

ところで、父の日には何を送るのが一般的なのでしょう…。

そういえば全く知らないなと思いました。

父の日を迎える前に調べないといけませんね。

 

 

 

それでは今回はこの辺で失礼いたします。

どうぞごゆるりとお過ごしください。

 

 

 

【おまけ】

 

“ぁあああああ!!”

“!?!?!?”

“こぼしちゃった…(※栄養剤入水)”

“あーあwww”